ポスト「アジア太平洋障害者の十年」をめぐる動きについて

国連エスキャップ社会問題担当官 高嶺 豊


 今年はアジア太平洋障害者の10年の最終年にあたり、日本では、「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラムが発足し、来る10月にはDPI世界会議が札幌、キャンペーン2002年が大阪で開催される。その民間会議に引き続いて、国連エスキャップ(※)では、日本政府と滋賀県の協力で、10年を締めくくるハイレベル政府間会議を滋賀県大津市で10月25日から28日まで開催する。この大津会議では、10年の目標の達成を評価し、さらに10年以降の枠組みと方針が決定される。

 いま、ポスト10年をめぐる動きとして、現在のアジア太平洋障害者の10年を、さらにあと10年継続するべきだという意見が2年ほど前から出始めている。

 現在アジア太平洋地域の障害者問題の中心になって取り組んでいるのが、障害者に関する課題別ワーキンググループ(Thematic Working Group on Disability-related Concerns)である。これは、国連、地域の主なNGOおよび政府が参加している地域機構で、年に2回集まり10年の促進のために重要な役割を果たしている。

 最近の集まりでは、アジア太平洋障害者の10年の評価の方法と、10年後の取り組みが主な議題として討論された。その中でも、障害者インターナショナル(DPI)アジア太平洋地域協議会では、「フリーダム・フロム・バリア(バリアからの開放)」と銘打って、10年の延長を求める提案を出していた。昨年12月ハノイで開かれたキャンペーン2001年の中で開かれた課題別ワーキンググループ第3回会議では、10年後の取り組みに関する議題が熱心に討議された。このワーキンググループの参加者は70余人に達し、10年への関心の高さが窺われた。

 この会議は全会一致で10年の延長を各国政府に要請することを決議した。次の10年への取り組みに関するさまざまな意見が活発に出された。それを総括すると、次の10年を障害者の権利に関する国際条約の設定を促進する地域メカニズムとしての役割をもつものとすること。現在の10年の行動課題とその目標を堅持しつつ、この10年の評価から最も重要であると思われる分野(教育、訓練・雇用、建築物や情報コミュニケーション技術へのアクセスなど)に焦点を絞った取り組みをすること。2年ごとにテーマを設定しての取り組み、小地域内の協力の促進などが提案された。

 ハノイのキャンペーン会議では、八代英太衆議院議員が開会冒頭の発表で、アジア太平洋障害者の10年のさらなる10年の継続を提唱し、1400人の参加者から絶大な支持をえた。10年延長の提案は、キャンペーン会議ハノイ宣言の骨子として全会一致で採択された。

●国際機関の動き

 アジア太平洋障害者の10年の成果として、世界銀行やアジア開発銀行が、障害者を貧困撲滅事業の重要な対象者としての認識を高めていることがあげられる。この2つの開発銀行では、現在障害者を貧困撲滅プロジェクトに統合する方策を検討し始めている。これは、障害者問題が、単なる社会福祉問題から開発問題の一環として真剣に取り組み始められていることを示している。

 エスキャップでは、現在、新しい事務局長を迎えて、事務局の役割を改革している最中である。グローバライゼーション(世界化)への取り組み、貧困の軽減、そして、新たな社会問題への対応という3つの柱を中心にして改革が進んでいる。その改革の中で、障害者問題は、エスキャップが取り組むべき重要課題として位置付けられている。

●今後の取り組み

 エスキャップの第58回総会が5月16日から22日まで開催される。この総会で、アジア太平洋障害者の10年の継続を求める決議文がでる可能性が高い。ここで決議文が加盟政府の支持を得て採択されれば、10月に大津市で開かれるハイレベル政府間会議は、次の10年の枠組みと方針を決定し、次期10年を打ち上げる重要な会議になる。

※国連エスキャップ(UN−ESCAP):国連アジア太平洋経済社会委員会

(2001年度「JDジャーナル」2月号より)


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